ピアノ奏法研究

〜ピアノの上達する奏法の解説と音楽について〜


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音階や単音の旋律の発音では、弾いている鍵盤上に重さが乗るよう安定した位置にごと移動しましょう。
ポジションを決めてしまって指だけを動かしていると浅い打鍵しかできません。また、次の音の発音と同時に前の音は鍵盤から離れて発音をやめなければならないのですが、この時指を積極的に跳ねあげたりする必要はありません。
重さをかける指を自然に乗り換えて次の音に重さを乗せれば、自然と前の音を弾いていた指は鍵盤から離れます。出来る限り指をあげる方向への不必要な負担は避けるようにしましょう。
重心を移動させる時にお勧めの奏法があります。それは、たとえばドレミファソファミレドの音階を演奏する時、図のように腕と手首を協調して軽くまわし、楕円を描くように演奏する方法です。ドレミファソと音階が登る時にはクロールで水をかくように、少しずつ手を沈めて重心を下げながらやや腕を手前に引くように横移動します。ソまで弾き終わったら今度は、腕の重さを重さを抜きながら鍵盤の少し奥のやや高めの位置へ重心を移動させます。
この奏法では、音階の演奏に欠かせない音楽的に自然なクレッシェンドとデクレッシェンドを鍵盤にかかる圧力の差で表現できます。ひとつひとつの音を指の力加減だけで調節しながら演奏するより、はるかに簡単で音楽的に自然な表現が可能です。これはドレミファソファミレドの基本的な形だけでなく、もっと複雑な旋律や分散和音などにも応用できる奏法なので是非この旋回で重心を移動させる奏法を身につけましょう。
 
ドを弾いている状態
 ドレミと順に弾いた状態
 ミファソと順に弾いた状態
ソファミと順に弾いた状態



さきほどの音階の重心移動は右手を例にしていましたが、左手は構造が右手と逆なので旋回運動も逆になります。
今度は左手でドソミドミソドと分散和音で下がって戻ってくる場合をみてみましょう。まず最初のドの音、この時左手は下の一番左の写真ように、出来る限り右に重心を寄せて親指に腕の重さを乗せます。次の人差し指(運指によっては中指)が降ろしやすい位置で待機するのは大事ですが、その次の音の「ミ」やさらに次の音の「下のド」の鍵盤上に他の指を置いておく必要はありません。
そこから手前にすこし引くように時計回りに旋回します。小指側に重心を移動させながら、ドソミドと腕の重さを支える指を入れ替えていきます。小指で下のドを弾いて重心がしっかり左に移ったら、今度は腕の重さを抜きながら腕を少し奥に移動させながら重心を右にシフトします。基本的に指は音を出す時に少し曲げる程度で、積極的な動きはしません。私たちが歩くときに重心が前に来て倒れる前に足を前に出して支えることを繰り返すように、指は腕の重心が移動してきた先の鍵盤上でその重さを支えるだけです。写真ではやや大げさに旋回させていますが、はじめは見た目にはっきりと分かるほど旋回させて、腕と手首の旋回によって音楽を表現する感覚を養ってください。
 
ドを弾いている状態
 ドソミと順に弾いた状態
下のドに重心が移動しきった状態
重心がミに戻ってきた状態




音階や広い範囲で駆け抜ける分散和音などでは重心の旋回移動だけでなくポジションの移動が必要になります。いわゆる親指をくぐらせる奏法です。ここでは右手の2オクターブに渡って分散和音が駆け登るドミソドミソドの奏法を例にとって詳しくみてみます。
始めのドミソまでは今までの軽い旋回運動で重心を移動させながら奏します。ソから次の高いドに移る時に親指をくぐらせる必要がでてきます。ですから、中指でソを弾くころには親指はやや高めの場所で待機しておくと後でスムーズに高いドの発音に移れます。この時、あまりこの「親指をくぐらせる」という事を意識し過ぎると不自然な奏法になりがちになります。ソとドの音を繋げようとするあまりに、中指を鍵盤に付けたまま無理に親指をくぐらせて届かせようとすることは危険です。指の長い人であれば可能かもしれませんが、多くの場合肘が上がる不自然な体勢になったりドの音だけ飛び出たりして、自然な音のつながりを壊してしまいます。一瞬何も音の鳴っていない空白の時間が生まれたとしても、均等に重さを乗せて発音を揃えることで擬似的にレガートを作りだした方が音楽的にも自然に聞こえます。慣れてくると、下の右の写真のように、大きな軌道で旋回運動をして自然なクレッシェンドの流れを作ることが出来るようになります。

 



単音での演奏は、前述した手首と腕の協調した旋回運動で重心を鍵盤上に移動させて腕の重さをコントロールする奏法で基本となる動きを示しました。基本的に右手は反時計回り、左手は時計回りの旋回を用いて様々な旋律に応用します。しかし、大きく重心を移動させるこの方法では、速度の速い単音のパッセージを弾くことが物理的に難しくなってきます。重いものほど速く動かすのにエネルギーが必要で、力の方向転換も難しくなるからです。
ですので速い速度での演奏には次の点に注意して奏法を考えましょう。

1.全ての指をそれぞれ動きやすい範囲までしか動かさない 私達にはそれぞれ指の動きやすい範囲が決まっています。試しに人差し指から小指までの4本の指を付け根からパラパラと動かしてみてください。軽い力で簡単にパラパラ動かせる範囲、それがあなたの指の適正範囲です。おおよそ右の写真のように、力の抜けた状態から15〜30度の範囲でなら誰でも高速で動かすことが出来ると思います。鍵盤はほんの9ミリほど押し下げれば音が出ます。必要以上に指をバタバタ動かすことは非効率的で音の質も悪くなるので省エネな奏法に改善しましょう。

2.常に次の音や次の音が弾きやすい(指を軽く降ろすだけで弾けるような)ポジションをキープすること。
 どんなに速いパッセージといっても、私たちの指は片手に5本もあります。上手く使い分ければそう忙しく動く必要はありません。それぞれの指が、必要な時に軽く掴む方向に動くだけで鍵盤を動かせる位置にいればいいのです。

3.動きを統合してシンプルにすること。
 たとえばソファミレドという音階を素早く弾く時に、まず小指を降ろして次に薬指を降ろすと同時にと同時に小指を上げてその次に中指を降ろして薬指を上げて・・・・・というように一つ一つの動きを別々にとらえて考えていると物凄く大変なことのように見えてしまいます。でも、それを「小指から順番に指をたたんでグーにしていくだけ」というように連続した一つの行動だとシンプルにとらえるだけで、動きは自然になり、かなり速い速度で演奏可能になります。複雑なパッセージも、多くの場合手になじむよう設計して作曲されていますし、動きの協調・統合が可能です。

4.速度が速ければ速いほど、1つ1つの鍵盤に重さをかけ辛くなる。この自然の法則に無理に逆らわないこと。
 速いパッセージでは全ての音をffで弾くことは原理的に不可能です。私たちが歩いている時と走っている時では、体重が1歩1歩しっかりと乗る歩いている時の方が地面へかかる圧力は強くなります。同じように、鍵盤上で素早く指が駆け抜ける場合、腕の重さを1音1音全てにかけることはできません。全ての音をffで弾こうとすれば、指で叩きつける奏法や腕を下に押さえつけて弾くような無理した奏法になってしまいます。このような奏法では良い音は出ませんし、疲れやすかったりと痛めたりと手にも良くありません。速いパッセージは軽く指先でさばくくらいの気持ちで弾きましょう。ffのパッセージでも本当に大きな音が欲しい箇所は2,3音程度です。本当に大きな音を必要としている箇所以外は軽くさばくつもりで演奏しましょう。



旋律や分散和音などで広い音程間を行き来したり広い和音を掴む時、よほど手の大きな人でない限り手を広げなければなrません。しかし手の広げ方によっては、りきんでしまったりアーチを崩してしまったりして音にも影響してしまいます。では、どのように開けばよいのでしょうか。
左の写真と右の写真を比べてください。左の写真は指の開く角度を意識して力を入れていますが、この状態で演奏をするのは少々無理があります。アーチは崩れ、打鍵とは関係のない強い力が入り、かといって鍵盤に対して”横”の距離が稼げているわけでもありません。
和音などを掴んだりする前に手を広げる場合など基本的には、右の写真のように手全体を根元から広げる方法がお勧めです。4指の第一関節が指を楽に降ろしやすい少し高い位置にあり、アーチの構造も全ての指で保っています。指の角度を広げるのでなく、手のひら自体を横に広くするつもりで、あまり力をかけすぎないように注意しましょう。

   


 

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