ピアノ奏法研究

〜ピアノの上達する奏法の解説と音楽について〜


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ここでは音楽について、解説します。解説といってもピアノで表現できる音楽には無限の可能性があり、どれが正解というのはありません。
クラシックではまずありえない様な表現方法がジャズではとても効果的で素晴らしい音楽になったりしますし、この作曲家はこう弾いたが良いという解釈も人によって様々です。
ですのでこのページでは、主にピアノでのクラシック音楽表現において「ここを意識したら音楽的に心地良く聞こえやすいよ」という私なりのコツを公開しておきます。
同じピアノであっても初心者の方とプロの方の演奏を比べると。全然違うように聞こえますよね?どうやったらプロのピアニストのように心に響く演奏に近づけるのか。その違いを、ただ漠然と「心がこもってるな、技術がすごいな」と聴くのと「この音のバランスで、ここが伝えたい音で、このクライマックスに向かって意識して演奏してるんだな」と色んな事に注目して聴くのでは大きく差がつきます。なぜ違うのかのポイントが分かるようになると、あとはその真似をするだけなので上達が格段に早くなります。

ではこれから、具体的な音楽の法則を見ていきましょう。



パソコンの打ち込みで音を並べたり、初心者の方が演奏したときにまず印象に残るのは「演奏が単調である」ということです。打ち込みによる音楽は特別に設定しなければ同じ大きさの音を正確に発音し続けますし、初心者の演奏は音の粒を揃えようと頑張るあまり流れ自体にあまり注意が向きません。しかし、実は音が全てきっちり揃っているということは、逆に音楽から遠ざかってしまいます。
音楽は楽譜通りに「p」や「f」、クレッシェンドやディクレッシェンドを守るだけではいけないんです。歌うような自然な息遣い、楽譜には書かれない暗黙の了解としての抑揚がなければ、まるでロボットが喋っているような不自然さを感じてしまいます。

ではどのような抑揚をつければいいのか。これはたくさんのピアニストの音楽を聴いていろんな音型のパターンを真似して体で覚えるのが一番自然でおすすめする方法です。音楽的な演奏をするひとは、ただ何も考えずに魂をこめて弾いているわけではありません。音のバランスや時間的な流れ、音楽の構成など様々なことを考慮して音楽を作っています。まずは一番聴きとりやすいメロディー(主旋律)の、楽譜でいう横の流れを意識して聴いてみましょう。メロディーのひとつひとつの音が、前後の音と比べて大きくなったか小さくなったか、そのメロディーではどの音が一番大きな音だったか。

例外は多くありますが、楽譜に書かれていない音楽の抑揚については原則的に次のようなルールがあてはまります。それは「高い音ほど大きく、低い音ほど小さい」という単純な法則です。基本的にメロディーは高い音ほど盛り上がり、低い音になるほど落ちつく性質を持っています。例えばJPOPなどでも、クライマックスであるサビの部分は他より高い音域で歌うことが多く、一番印象に残る部分は一番高い音が当てられることがほとんどですよね。一番伝えたい音、重要な音は楽譜上でも頂点に位置することが多いのでそのことを意識していろんな曲を聴いてみてください。
この音楽的な法則は無機質のように思える音階やアルペジオなどにも当てはまります。ハノンやチェルニーなども、音をマシンガンのように正確に同じ質の音で叩き続けるのではなく、音楽的な流れや抑揚を意識して演奏すると音楽的にも格段に成長すると思います。

 
高いドに向かって自然にクレッシェンドしていき、高いドでクライマックスを迎え、低いドまで緩やかにディクレッシェンドしてメロディーはおさまる。 


ここで一番気をつけなければならないことは、クレッシェンド・ディクレッシェンドが"自然"でなければならないことです。自然なクレッシェンド・ディクレッシェンドとはどんなものでしょうか。

ピアノは発音原理からいうと打弦楽器で、ピアノ線をハンマーで叩くことで音を出します。ピアノの音の振動を表すと下の左図のようになります。ピアノ独特の音の立ち上がり(弦とハンマーの衝突音)の後は弦の純粋な振動だけになるので音は急速に小さくなり、その音も次第に減衰していきます。ピアノは一度だした音を変えることはできないので、連続して発音すると右の図のように音の立ち上がりが目立つことで「ドレミ」の子音を聴きとることができます。

 
1音だけ発音した場合の音の振動 3音連続して発音した場合の音の振動 

しかしその特徴ゆえに、ピアノでは歌やヴァイオリンのように完全になめらかにクレッシェンドしたりディクレッシェンドしたりすることができません。どんなになめらかに弾こうとしても、それは「なめらかにクレッシェンド・ディクレッシェンドしているように錯覚して聴こえる」”擬似的”なレガートなのです。この実際には分離した音の集まりなのに、1つの大きな流れとしてクレッシェンド・ディクレッシェンドのように聴こえる表現をすることが、慣れない人にとってはとても難しいのです。下の左に示したイメージのように、単純に「前の音より少し大きい音、次の音はそれより少し大きい音」のように1音ずつ個別に考えて弾くと、1つ1つの音が階段のようにガタガタした不自然なクレッシェンドになります。理想はクレッシェンドは芽が成長してお花が咲くように、ひとつの大きな変化として自然に聞こえることです。抑揚をつけて歌いながら一緒に弾いたり、意識して色んなピアニストの演奏を聴いてみたり工夫して音楽的な自然さを身につけましょう。


モーツァルトのソナタ k.545の例
 
 楽譜に書かれていなくても、音の強弱は絶えず変化しています。「音は高い方が大きい」が基本です。意識して観賞、演奏しましょう。





ピアノは管楽器や歌などと違い、同時にたくさんの音を出すことができます。主旋律・副旋律はもちろん、ベース音や和声・リズムまでたくさんの役割をピアノだけでまかなうことが出来るのです。だからこそ、それぞれの役割を理解して弾き分けることはとても大切なことです。ピアノ演奏において音のバランスは、ひとつの和音を聴くだけでその人の音楽への理解や感性が分かるといってもいいぐらい重要な要素です。全く同じ和音を弾いても受ける印象がまったく異なります。

初心者の方がひとつの和音を弾く時、目の前の楽譜と鍵盤の位置を合わせること、つまり楽譜通りの音をただ発音することにしか注意が向きません。音について何も考えずに指を動かすと、ほとんどの音が同じくらいの大きさで鳴りジャカジャカジャーンジャーンと生気のない初心者独特の演奏になります。だからといって、ただ漠然と”心を込めながら丁寧に”弾けば音が良くなると思っていたら、ピアノの上達を遠回りすることになります。気持ちだけ変えても、出てくる音に対して考えずに演奏したのでは結果はあまり変わりません。音のバランスを考えて弾き分けるだけで、あなたのピアノ演奏は初心者の音をすぐに卒業して、心地よい演奏に近付くことができます。

ただバランス良く弾きましょうとだけ言われても、多くの人は具体的にどこの音をどう変えれば良くなるのか分かりません。自分の演奏とCDなどのプロの演奏とを聴き比べても、ただ音が違うことは分かっても、どこがどう違うのか、どうしたらプロの演奏に近づけるか答えを導くのは大変です。そこで、音のバランスについて原則的なルールを知っておくことが、音のバランスについて考えるための”ものさし”になります。最終的には音のバランスも好みの問題であって絶対的な正解などはないのですが、特にクラシックでは一定のルールを守れば心地良く聞こえやすいので参考にしてみてください。




ピアノで全ての音を均等な力で演奏すると、メロディーの音の大きさが1に対して伴奏で鳴らした和音の大きさが4などになってしまい、何を表現しているのか分からないくらいごちゃごちゃした音楽になってしまいます。音楽には、必ず聞こえて欲しい重要な音と、あまり出しゃばって聞こえてくると困る”重要じゃない音”があります。それらを意識して音量のバランスを取るととてもスッキリした音楽になるでしょう。
ほとんどの場合、聞く人が一番聞きたい音はメロディー(主旋律)です。歌でも、歌手が歌ってる声や歌詞がしっかり聞きとれなければ面白くありませんよね。特にピアノでは全て同じ楽器から出る音でメロディーも伴奏も表現するので、その差はハッキリとつけていた方が心地よく聞こえます。どのくらいの音量バランスで弾くかというのは、演奏する人の感性によるのですが、おおよその目安としてこのくらいの割合を心がけて弾くと綺麗に聞こえると思います。

メロディー5、ベースの音3、内声の和音2
まずメロディーがあって、それを下からベースの音が支える。この音楽の大きな骨組みだけでも、十分音楽として聞こえてきます。逆にいえばこのメロディーやベースの音が抜けたり、かすれたり他の音にかき消されたりすれば、悪い意味で目立ってしまいます。特にメロディーはとても重要な音なので、メロディーがささやくように小さくなれば、それが聞きとれるように他の音を調節する必要があります。
メロディーとベースで外枠が出来たら、そこに内声の和音によって、曲のリズムや和声の細かい性格付けを行います。この時、ベースや内声にメロディーの横の流れ(副旋律)があらわれた時は、そのメロディーが聞き取りやすいよう強調して演奏します。
特に低音や内声に主旋律が移った時は要注意です。ピアノの音は同じ大きさの音でも高い音の方が強く聞こえるので、メロディーより高い音での伴奏はかなり控えめに演奏しなければなりません。


ショパンの練習曲op.10-3「別れの曲」の例




メロディーなど横のつながりのない単純な和音をポンと出すだけでも、均等に音を出すのと声部ごとに音の大きさを変えて出すのでは全く違う音のように聞こえます。和音を心地よく聞こえるように出すにはどうすればよいでしょうか。

基本的に和音は3つの音からできています。
根音と第3音、第5音です。

一番重要な音は根音です、その和音のもっとも基本となる音です。一番下の声部に置かれることが多いので、ベースの音としてしっかり和音やメロディーを支える大事な役割を持っています。
次に大事なのが第3音。その和音が長調なのか短調なのか決定づける重要な役割を持っています。この音が聞こえないと、和音は不安定な音に聞こえます。特に第3音がメロディーなど一番上の声部に置かれている時は、すこし大きすぎるくらい強調すると綺麗に響きます。
自分の耳で色んなバランスで弾いて確かめて、綺麗な響きを手に入れるのが一番なのですが、目安として次のバランスを参考にしてください。



リズムは曲の性格を決める重要な要素です。単純な4拍子でも、強拍と弱拍の差をつけてどこが1拍目なのか聞いている人が分かるように演奏しなければなりません。強拍と弱拍の差をつけずに全て同じ調子で弾くと、聞いている方も息がつまりますし、演奏に惹きこまれることなく終わってしまいます。
シンコペーションなどの特殊なケースを除いて、音楽は必ず1拍目に重さがあり、音楽はそこに向かって流れています。例えばワルツのリズムでは、ズンチャッチャ、ズンチャッチャ、ズンチャッチャ、と言うリズムですが、この1拍目のズンに重さを置いて大きな音で弾き、残りの2拍のチャッチャという音はさして重要な音ではないので軽く力を抜いて演奏する。これだけでも、聞いていて分かりやすくスッキリしてきますし、時間の流れも音楽的に感じられるようになります。


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