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しかしその特徴ゆえに、ピアノでは歌やヴァイオリンのように完全になめらかにクレッシェンドしたりディクレッシェンドしたりすることができません。どんなになめらかに弾こうとしても、それは「なめらかにクレッシェンド・ディクレッシェンドしているように錯覚して聴こえる」”擬似的”なレガートなのです。この実際には分離した音の集まりなのに、1つの大きな流れとしてクレッシェンド・ディクレッシェンドのように聴こえる表現をすることが、慣れない人にとってはとても難しいのです。下の左に示したイメージのように、単純に「前の音より少し大きい音、次の音はそれより少し大きい音」のように1音ずつ個別に考えて弾くと、1つ1つの音が階段のようにガタガタした不自然なクレッシェンドになります。理想はクレッシェンドは芽が成長してお花が咲くように、ひとつの大きな変化として自然に聞こえることです。抑揚をつけて歌いながら一緒に弾いたり、意識して色んなピアニストの演奏を聴いてみたり工夫して音楽的な自然さを身につけましょう。
ピアノは管楽器や歌などと違い、同時にたくさんの音を出すことができます。主旋律・副旋律はもちろん、ベース音や和声・リズムまでたくさんの役割をピアノだけでまかなうことが出来るのです。だからこそ、それぞれの役割を理解して弾き分けることはとても大切なことです。ピアノ演奏において音のバランスは、ひとつの和音を聴くだけでその人の音楽への理解や感性が分かるといってもいいぐらい重要な要素です。全く同じ和音を弾いても受ける印象がまったく異なります。 初心者の方がひとつの和音を弾く時、目の前の楽譜と鍵盤の位置を合わせること、つまり楽譜通りの音をただ発音することにしか注意が向きません。音について何も考えずに指を動かすと、ほとんどの音が同じくらいの大きさで鳴りジャカジャカジャーンジャーンと生気のない初心者独特の演奏になります。だからといって、ただ漠然と”心を込めながら丁寧に”弾けば音が良くなると思っていたら、ピアノの上達を遠回りすることになります。気持ちだけ変えても、出てくる音に対して考えずに演奏したのでは結果はあまり変わりません。音のバランスを考えて弾き分けるだけで、あなたのピアノ演奏は初心者の音をすぐに卒業して、心地よい演奏に近付くことができます。 ただバランス良く弾きましょうとだけ言われても、多くの人は具体的にどこの音をどう変えれば良くなるのか分かりません。自分の演奏とCDなどのプロの演奏とを聴き比べても、ただ音が違うことは分かっても、どこがどう違うのか、どうしたらプロの演奏に近づけるか答えを導くのは大変です。そこで、音のバランスについて原則的なルールを知っておくことが、音のバランスについて考えるための”ものさし”になります。最終的には音のバランスも好みの問題であって絶対的な正解などはないのですが、特にクラシックでは一定のルールを守れば心地良く聞こえやすいので参考にしてみてください。 ピアノで全ての音を均等な力で演奏すると、メロディーの音の大きさが1に対して伴奏で鳴らした和音の大きさが4などになってしまい、何を表現しているのか分からないくらいごちゃごちゃした音楽になってしまいます。音楽には、必ず聞こえて欲しい重要な音と、あまり出しゃばって聞こえてくると困る”重要じゃない音”があります。それらを意識して音量のバランスを取るととてもスッキリした音楽になるでしょう。 ほとんどの場合、聞く人が一番聞きたい音はメロディー(主旋律)です。歌でも、歌手が歌ってる声や歌詞がしっかり聞きとれなければ面白くありませんよね。特にピアノでは全て同じ楽器から出る音でメロディーも伴奏も表現するので、その差はハッキリとつけていた方が心地よく聞こえます。どのくらいの音量バランスで弾くかというのは、演奏する人の感性によるのですが、おおよその目安としてこのくらいの割合を心がけて弾くと綺麗に聞こえると思います。 メロディー5、ベースの音3、内声の和音2 まずメロディーがあって、それを下からベースの音が支える。この音楽の大きな骨組みだけでも、十分音楽として聞こえてきます。逆にいえばこのメロディーやベースの音が抜けたり、かすれたり他の音にかき消されたりすれば、悪い意味で目立ってしまいます。特にメロディーはとても重要な音なので、メロディーがささやくように小さくなれば、それが聞きとれるように他の音を調節する必要があります。 メロディーとベースで外枠が出来たら、そこに内声の和音によって、曲のリズムや和声の細かい性格付けを行います。この時、ベースや内声にメロディーの横の流れ(副旋律)があらわれた時は、そのメロディーが聞き取りやすいよう強調して演奏します。 特に低音や内声に主旋律が移った時は要注意です。ピアノの音は同じ大きさの音でも高い音の方が強く聞こえるので、メロディーより高い音での伴奏はかなり控えめに演奏しなければなりません。
メロディーなど横のつながりのない単純な和音をポンと出すだけでも、均等に音を出すのと声部ごとに音の大きさを変えて出すのでは全く違う音のように聞こえます。和音を心地よく聞こえるように出すにはどうすればよいでしょうか。 基本的に和音は3つの音からできています。 根音と第3音、第5音です。 一番重要な音は根音です、その和音のもっとも基本となる音です。一番下の声部に置かれることが多いので、ベースの音としてしっかり和音やメロディーを支える大事な役割を持っています。 次に大事なのが第3音。その和音が長調なのか短調なのか決定づける重要な役割を持っています。この音が聞こえないと、和音は不安定な音に聞こえます。特に第3音がメロディーなど一番上の声部に置かれている時は、すこし大きすぎるくらい強調すると綺麗に響きます。 自分の耳で色んなバランスで弾いて確かめて、綺麗な響きを手に入れるのが一番なのですが、目安として次のバランスを参考にしてください。 リズムは曲の性格を決める重要な要素です。単純な4拍子でも、強拍と弱拍の差をつけてどこが1拍目なのか聞いている人が分かるように演奏しなければなりません。強拍と弱拍の差をつけずに全て同じ調子で弾くと、聞いている方も息がつまりますし、演奏に惹きこまれることなく終わってしまいます。 シンコペーションなどの特殊なケースを除いて、音楽は必ず1拍目に重さがあり、音楽はそこに向かって流れています。例えばワルツのリズムでは、ズンチャッチャ、ズンチャッチャ、ズンチャッチャ、と言うリズムですが、この1拍目のズンに重さを置いて大きな音で弾き、残りの2拍のチャッチャという音はさして重要な音ではないので軽く力を抜いて演奏する。これだけでも、聞いていて分かりやすくスッキリしてきますし、時間の流れも音楽的に感じられるようになります。
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